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 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。
 最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。
 まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。
 私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。
 報酬ですか? いえ、お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は……


華代ちゃんシリーズ

「究極のコスプレ」

作:高樹ひろむ イラスト:MONDOさん

※ 「華代ちゃん」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan00.html


 毎年のように開かれる同人誌即売会「コミック・エキスポ」。
 「こみっくパラダイス」や「コミックタウン」ほどの規模ではないが、コスプレイヤーの参加が多くて、それを見ているだけでも飽きることがないという特徴がある、中堅クラスの即売会である。
 春野奈須雄(はるの なすお)は、お目当ての同人誌を買うためにその会場に来ていた。


 辺りを見回すと、いつものごとくコスプレしている人たちがいる。しかし……
「いいかげんに見苦しい女装は止めてほしいよなあ、……といっても毎度のことだけど。はぁ」
 そんなこと言って溜息をついていると、突然小さな女の子が話しかけてきた。
「お兄さん、何か悩んでるみたいだけど、どうしたんですか?」
「きみは?」
「あたしはセールスレディです! 何か悩み事はありませんか? お兄さん」
 そう言って名刺を渡してくる。奈須雄が受け取ると、それにはこう書いてあった。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」


「しんじょう かよちゃん?」
「ましろ かよです。何か悩み事がありましたら遠慮なくお申し付けください」
「と言われても、お金なんか持ってないし」
 もちろん嘘である。お目当ての同人誌を買うために十分過ぎるほどのお金は持ってきた。
「いえ、お金なんかいただきません。お客様に喜んでいただければそれで」

(どうせ何かのコスプレでセールスマンごっこをしているのだろう、まあ適当に相手してやるか。……それにしてもそんな漫画やアニメなんてあったっけ? ま、いいか)

 なんせここではコスプレが当たり前なのである。知らないキャラクターがいてもおかしくはない。
「そうだなあ、悩み事って言えるのかどうかわからないけれど……ちょっとアレ見てよ。いわゆる女装コスプレというものなんだけど、見苦しいのなんの」
 奈須雄の指さす方を見ると、いかにも「女装したオッサン」という感じの男性が歩いている。
 元々男っぽい顔なのは仕方ないにしろ、もう少しそれに合わせた格好はできないものかと思う。
 あれじゃこんなところにいるより、どこぞの女装パレエ団(※)にでも入団した方がいいのではないだろうか。
「うーん、確かにあれは見苦しいわね」
「本当は僕だってやってみたいんだけど、あんなのは厭だしなあ。ちゃんとキャラクターになりきれるようなコスプレだったらいいけどね」
「ふーん、なりきれればいいのか。……ところでお兄さんは、どんなコスプレがしたいの?」
「なずなちゃんだよ、『なずなSOS』の。ちょっぴりドジだけど、とてもかわいいんだ」
 『なずなSOS』とは、ドジっ娘超能力者のなずなちゃんがマヌケな悪人どもと戦うという女の子向けアニメである。
 といっても、「実は男性ファン目当てのロリコンアニメである」ともささやかれているのだが。
「でもね、さすがに自分が女装したって似ても似つかないし、それ以前に見苦しいだろうし」
「わかりました。それじゃいきますよ」
 そう言って華代ちゃんは両手を上げた。
 いったい何をする気なんだろう? ……と思う間もなく、華代ちゃんは「そおれっ!」と言いながら両手を振り回した。
 奈須雄の胸に違和感が走る。なんなんだこれは?
「ええっ? 何これ? いったい何をしたの? 華代ちゃん」
 違和感はだんだんと大きくなり、そして胸がムクムクとふくらんでいく。
 シャツが突っ張るほどの大きさになり、押さえつけられて苦しくなる。
 さらにはお尻が大きくなりズボンが張り裂けそうになる。
 股間のモノが押さえつけられて痛くなったかと思いきや、吸い込まれるように消えていく。
 肩が落ちてなで肩となり、腰は細くなり、背丈が縮んでゆく。
 髪の毛も長くなって肩くらいまでの長さになる。きれいなストレートの黒髪だ。
 顔も美少女のものへと変わっていく。少々下膨れだが、そこがまた可愛い。
 細くて華奢な手、内股になった足。少々太めであるのが欠点か。
「こ、これは……!?」
 そうつぶやいた声も、甲高い女性の声だった。


 今度は服装が変化を始めた。
 上着のジャケットがブレザーに、下に着ていたシャツがブラウスになる。
 それと同時に、押さえつけられ苦しかった胸も緩んで楽になる。
 ズボンが短くなっていき、ひとつにまとまる。……と思ったら広がって、チェックのミニスカートに変わった。
 靴下は白く、そして長くなってハイソックスへと、靴は女物のローファーへと変化する。
 先ほど楽になった胸が再び締め付けられる。ブラジャーが着けられているのか?
 下着も股間にぴったりとフィットするように変わっていった。これはパンティだろうか?
 最後には首周りにリボンネクタイ、頭にヘアバンドが出現する。
「できましたよ。……ほら、どこから見てもなずなちゃんです!」



なずなちゃん
イラスト:MONDOさん




 華代ちゃんの声に、呆然としていた奈須雄は我に返った。
 気がつくと会場の様子も変わっている。見苦しい女装をしている人はいつの間にかいなくなっていた。
 そのかわり、コスプレイヤーにやたら女の子が増えたような……でもなんか変……

 しゃがみこんで「な、な、な、なんだこれはぁ〜っ!?」と、叫んでいるゴスロリ衣装の女の子や、自分の胸をもみながら、「はあぁ、柔らかくて気持ちいい……」と、感極まっているお姫さまドレスの少女、股間を押さえて「ないっ、無くなっちゃったぁ……」と青くなっているレオタード姿の美少女戦士もいれば、開き直ったかのようにポーズ決めて、「んふっ。……あたし、きれい?」とウインクする恋愛ゲームのヒロインもいる。
 おまけにそそくさとトイレに走り込む人まで……いったい何をしようというのやら。

 でもみんなよく似合っている。さっきの女装のオッサンも、今ではすっかり綺麗なお姉さんに変わっている。
 そう、もはやコスプレなどと言えるものではなく、キャラクターそのものと称した方がいいだろう。どうやら華代ちゃんは、女装コスプレイヤー全員を「本物の女性」へと変身させてしまったらしい。
「コスプレしたいとは言ったけど、女の子になりたいわけじゃないのに……」
 奈須雄はあわてて華代ちゃんの姿を探すが、彼女は既にどこへともなく消えていた。


 あちらこちらからカメラのシャッター音が聞こえる。やはりコスプレイヤー目当てなのだろう。特に今日はいつもより多いようだ。
 きっとかわいい娘が多くなったからだろうな……などと思っていると、ついに奈須雄も声をかけられた。
「すみません、なずなちゃんですよね。写真撮らせてください」

(えっ?)

 一瞬、何のことだか分からなかったが、奈須雄は自分が今、なずなちゃんの姿をしてるのを思い出した。

(まあいいか、せっかくだから楽しもう。でも、恥ずかしいなあ……)

「はい、わかりました。……で、どのような格好をしたらいいのかしら?」
 口から自然と女言葉が出てしまう。
「いわゆる『ぶりっ子ポーズ』というやつかな、手を握って胸の前で合わせるやつ。んで、『そんなことしちゃいけないわ』って言ってみてください」
 言うまでも無く、なずなちゃんの定番ポーズである。アニメでよく観ていたとはいえ、うまくできるか心配だったが、今の体が覚えているのか、あたかも自分が元からなずなちゃんであったかのように自然とポーズが決まる。
 そしてシャッターがと同時にフラッシュが光り、カメラマンは「ありがとうございました」と頭を下げて去ってゆく。

(やっぱりコスプレってとても楽しいわ……またやろうかしら?)

 なぜか頭の中までもが女言葉になっていた。……だが、何故か奈須雄はそれに違和感を覚えなかった。


 撮影を頼まれることが多くて思うようにいかなかったが、それでも合間をぬって同人誌を買い回る。
 特に今回は面白い同人誌が予想外に多く、出費がかさんで財布がすっからかんになってしまった。

(さてと……このままだと大混乱になるわね。何とか元に戻せないかしら……)

 いつもの奈須雄と違って、なぜかそんな考えが浮かぶ。

(もしみんながキャラクターそのものになったのだとしたら、魔法少女さんなんかもいるかもしれないわね。ましてそれが悪い魔法少女さんだったりしたら、それこそ大変なことになっちゃうわ……)

 そんなことまで考えるなんて、やはり自分の心までもが「なずなちゃん」に変わりつつあるのだろうか。

(華代ちゃんがああいうふうにやったのだから、同じことをしてみればいいわよね、きっと)

 冷静に考えればあまりに突飛な考えだが、今や「なずなちゃん」である奈須雄にとっては当然の発想だった。
 奈須雄は自分が男に戻った姿を思い浮かべて、両手を上に上げると、
「なずな、行きまぁ〜す! そおれっ!」
 と叫びながら、華代ちゃんの真似をして両手を振り回した。
 会場中に風が巻き起こり、女になった人達が、どんどん元の姿に戻っていく。
「あははは、できちゃった……」


 奈須雄は周りのみんなが元通りになったのを確認すると、自分の姿を見るために洗面所へ入った。

(ああよかった。これで自分もちゃんと元に戻……ってない!?)

 奈須雄の姿はなずなちゃんのままであった。
 そこでもう一度、自分が男に戻った姿を思い浮かべて、
「なずな、行きまぁ〜す! そおれっ!」
「なずな、行きまぁ〜す! そおれっ!」
「なずな、行きまぁ〜す! そおれっ!」
 ……何回も試してみたが、それらは全くの徒労に終わった。
「なんで? なんで? どうしてなの? ねえ華代ちゃん」
 当然答えなど返って来るはずもない。
 残っているのは、華代ちゃんにもらった名刺ただ一枚のみであった。


 仕方が無いので、その姿のまま駅へと向かう。
 切符を買うため財布を取り出すと、中身は10円玉が5枚と1円玉が4枚だけ。
 当然これだけでは切符が買えるはずも無い。
「あれ? 足りないや。ちょっと買いすぎちゃったのかしら?」
 銀行でお金を下ろそうと周りを見回す。……あ、あった。
 違う銀行なので手数料がかかるけど、しょうがないか……と思いつつ、奈須雄は目についた駅前の銀行へと急いだ。


 キャッシュカードなので、すぐにお金を下ろすことができた。
 駅へ戻ろうとすると、突然銀行の中にサングラスとマスクをした男たちが走り込んできた。
 男の一人が手にした改造拳銃を天井に向けて発射し、叫んだ。
「手を上げろっ! 動くなっ! 動くなよっ!」
 男たちは(今時珍しい)銀行強盗だった。

(どうしよう? どうしよう? ……そうだ、あたしがなんとかしなくちゃ!)

 不意に頭の中にそんな言葉が浮かぶ。そう、あたしはなずなちゃんなんだ。(……だとすると、超能力も使えるかな? 強い光で気絶させるあの技とか――)

 奈須雄――なずなは銀行強盗たちの方を向くと、大きく息を吸い込んで……叫んだ。
「な……なずな……クラ〜ッシュ!!」



 そのとたん、銀行の建物が音を立てて崩れ落ちた。
 強盗や他の人たちは崩れた建物の下敷きになる。そして、なずなは瓦礫の中で呆然と立ちつくしていた。

「え、え〜っと・・・間違えちゃった、てへっ♪」

 なずなは頭を軽くげんこつで叩くと、ウィンクしながら舌を出した。

(はわわわわ〜、「なずなフラッシュ!」って言おうとしたのに〜っ。……でもまあいいか、次こそはがんばるわよ!)





 今回の依頼は少々考えてしまいましたが、依頼者の言葉がいいヒントになりました。
 「キャラクターになりきれるようなコスプレ」ですか、とてもいい言葉ですね。だからあたしは、みんなをキャラクターそのものにしてあげました。
 それってある意味究極のコスプレですもんね。

 でもなずなちゃんて確かとんでもないドジっ娘で、しかも超能力は半端じゃないはず。そんなのに変身させちゃったけど大丈夫なんでしょうか?
 ……って誰ですか、「それじゃまるで華代ちゃんみたいだ」なんて言ってる人は! プンプン!


 それではまたどこかでお会いしましょう。再見!


 初めての投稿です。やっぱり華代ちゃんって書きやすい。こういう素晴らしい設定を考えられた真城悠さんに感謝。
 同人誌即売会モノということでは、先にぴろさんの「こみパラ」というのがあるので、同じ切り口にならないように書いてみました。
 とはいえ、コンセプトが似通ってるので、あまり大きいことは言えませんけど。

 ところで、「なずなちゃん」って一応元ネタあるんですけど、知ってる人いらっしゃいますかね?
 自分の書きたかったものは、ドジっ子を超えた「スーパードジっ子」なのでこんなふうになりました。






























 ※女装バレエ団は実在します。作中ではこき下ろしていますが、結構面白くて人気があるとのこと。
 生理的に受け付けない人以外は一度見てみるといいかも。

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