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 こんにちは。初めまして。私は真城華代と申します。
最近は本当に心の寂しい人ばかり。そんな皆さんの為に私は活動しています。
まだまだ未熟ですけれども、たまたま私が通りかかりましたとき、お悩みなどございましたら是非ともお申し付け下さい。
私に出来る範囲で依頼人の方のお悩みを露散させてご覧に入れましょう。どうぞお気軽にお申し付け下さいませ。
 報酬ですか?いえ、お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。

 さて、今回のお客様は……。


華代ちゃんシリーズ
「Stop・The・新幹線」
作:高樹ひろむ


※「華代ちゃん」シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan00.html


 速水鉄朗はいつものように新幹線スーパーのぞみ123号を運転していた。
普段と同じく、ゴーという轟音とともに小倉駅を通過してゆく。

「小倉通過、定刻」

 あと少しで終点の博多駅に到着する。そうすれば本日の勤務は終了。
明日の乗務までゆっくり休める…。
その思いが土壇場で裏切られることになろうなどとは鉄朗は思いもしなかった。

「チン」という音とともにATCの表示が切り換わる。速度指示300km/h。
「300キロ、進行」

 鉄朗はマスコンレバーを引いて加速する。120、130、140……
速度はぐんぐん上がっていく。そして時速300kmに達した時マスコンレバーを戻す。
これでいい。あとはこのまま終点でブレーキをかけて停めるだけ。
ブレーキのかけ方はATCの指示に従えばいい。万が一かけ損ねたとしてもATCが自動的に列車を停めてくれるはず。
極端な話自分が寝たとしても列車はちゃんと停まってくれる。
そう思うと、鉄朗は疲れていたこともあってうつらうつらと眠りそうになる。
その後しばらくの間は何事も無く過ぎていった。

 と、その時である。後ろのほうで大きな音がしたと思うと音が遠ざかっていった。
ハッ! と気がつく鉄朗。不覚にも眠りかけていたがこれですっかり目が覚める。
そして「バン」という音とともに鋭い光が走り、そしてすべての表示が消えてしまった。

「???」キョロキョロと見回す鉄朗。だが何が起きたのかは全く理解ができない。
とはいえ、走行に差し支えるような異常事態になれば自動的に非常ブレーキがかかるはず。
だが列車は走っている。速度を落とす気配など全く無い。
これは大変なことになった。とりあえずブレーキレバーを思いっきり押し込む。
しかしそれでも列車は全く速度を落とそうとしなかった。
次に非常停止ボタンを押す。それも全く反応なし。「ど、どうしよう……」鉄朗はパニックになる。
そして列車を停めるべくいろいろな操作を試みたが、それらはすべて失敗に終わった。

「車掌に頼んで非常ブレーキをかけてもらうか」
通信機のマイクを手に取り、車掌を呼び出す。

「123Aウテシより123Aカレチへ、応答願います」

 しかし、応答は全く返ってこない。通信機までもが壊れたのだろうか?
鉄朗は知る由もなかったが、このとき車掌は既に車内にいなかった。

(こうなったら、自分で車掌室に行くしか無いのか)
そう思いついて鉄朗は急いで運転室を出た。とにかく時間が無い、早くしなくては。
急いで車掌室に駆けつけ、非常ブレーキをかける。
しかし、列車の速度は多少落ちたものの、停車にはほど遠かった。
このままだと、終点に突っ込んで大惨事になるのは目に見えている。
(停まれ……停まってくれ……たのむ)必死に祈りつつブレーキをかける鉄朗。

 そうこうしているうち、誰かが上着のすそを引っ張る。

「運転手さん、ねぇ、運転手さんでしょ?」
こんなときに誰だろう? と思って振り向くとそこには小さな女の子が。

「お嬢ちゃん、どうしたの? 迷子にでもなったの?」

「はい、これ」と名刺を差し出す女の子。

鉄朗がそれを受け取ると、そこにはこう書いてあった。


「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」


「あたし、セールスレディです。何か悩み事はありませんか? 運転手さん」
正確には運転手でなく運転士、である。しかしそんなことをここで訂正しても仕方が無い。

「悩み事? 今それどころじゃ無いというのが見て分からないのか!」
鉄朗は焦りもあって怒るような口調になる。

「ねえ、どうしたんですか? 本当はずっと運転席にいなければいけないんでしょ?」

「新幹線が停まらないんだ、それでも何とか停めようとしたけど、駄目なんだよ。
 何とかしてくれるならば男を捨てたっていいとまで思ってる」

言ってしまってから鉄朗は後悔した。そんなこと聞けば誰だってパニックになるに決まっている。
しかし女の子はパニックになるでもなく、むしろ目を輝かせて冷静な口調で話し続けた。

「やっぱり悩み事があるんじゃないの。もしかして、他にも何かあるんじゃないの?」

「そうだなあ、死ぬ前に一度でいいから新型の新幹線を運転してみたかったな……
 って、そんなこと考える間に何とか停めないと」

「わかりました。
 1つ、新幹線が停まるようになること
 2つ、新型の新幹線を運転してみたい
 これでいいのね。あたしが見事かなえてあげましょう。
 だから早く運転席に戻ってくださいね、運転手さん」

そんなバカな、と鉄朗は思った。こんな小さな女の子が新幹線を停めてくれるだなんて。
しかしなぜだかわからないが、それはとても説得力がある言葉に思えた。

「まあいいや、ダメ元で従ってみよう、藁にもすがる思いとはこのことか」
九分九厘口から出任せだとは思いつつも、鉄朗は急いで運転席へと戻ることにした。

 鉄朗が運転室へと戻ったのを確認すると、華代ちゃんは少し考えて

「新型の新幹線を運転するなら、やっぱそれなりの格好じゃなくちゃね、えいっ!!」
と言いながら手を振った。新幹線の中に風が巻き起こる。

 運転室に入った鉄朗は体に異常を感じた。胸がムクムクとふくらんでゆく。
な、なんだこれは? 自分の体はどうなってしまったんだ?

 変化はそれだけにとどまらなかった。お尻が大きくなり、股間のモノが無くなっていく。
腰が細くなり、背丈が縮んでゆく。髪の毛も長くなって肩までの長さに。
細くて華奢な手。これが本当に自分の手なのか?
「こ、これは……」と言う暇さえなく、今度は服装が変化を始めた。

 上着の袖がだんだん短くなってゆき、そしてとうとう無くなってしまう。
ズボンが短くなってゆき上着と合体。そしてワンピースへと変化する。
そしてスカートのように裾が広がるかと思うと先のほうが少しだけすぼまる。
胸から上の方が黒くなり、窓のようなものが出現する。
その下、お腹までの間は緑色に、そこから下は真っ白になる。
後ろの方にはリボン、そしてご丁寧にしっぽまでもが。

 手袋はだんだん長くなって肘より上まで伸びる。
靴下は長くなっていき、靴は白くなってブーツへと変化する。
最後に帽子もカチューシャへと変化。そして何か突起のようなものが。

「いったいどうなってしまったんだろう?」鉄朗は一瞬パニックになった。
頭に手を当てるとそこには猫耳型の板が。
それはカチューシャにくっついてて、頭から外すのは簡単に思えた。
しかし、なぜかそうする気にはなれなかった。

「こ、これは確か…」
そう、以前に新型の新幹線について調べていた時に見たことがある。

「トレインガール、だよな。でも何で自分が? まさか、あの女の子のせいかしら?」
考える言葉までもが女言葉になっていく。

 ふと見ると見慣れたはずの運転室がいつもと違って見える。
?マークが頭に一杯になりながらも、鉄朗は急いで運転席へと座る。

 目の前には3枚のディスプレイパネル。そこには速度等必要な情報が全て表示されている。
ちゃんと表示されているということは、元通り列車が生き返ったのか?
でもいままでの運転台とは明らかに違う。確かこれって……

 と考える間もなく頭を上げると、列車はまだ走っている。
このまま終点に突っ込んでしまうと大惨事になるのは目に見えている。

「そうだ、とにかく停めなきゃっ」

 向こうに小さく博多駅が見えている。まだまだ先のようにに見えるが、新幹線は速いのだ。
どう考えてもこのスピードで突っ込んだら停まりきれるはずがない。

「本当に間に合うの? 神様お願い、停めて……」
と祈りながらブレーキレバーを回し、おもむろに非常停止ボタンを押す。

 床下から激しいブレーキ音が、少し遅れて耳をつんざくような風切り音が頭上から聞こえ始める。
ものすごい力で体が前に引っ張られてシートからずり落ちそうになる。
ぐんぐん迫ってくる博多駅を見ながら、鉄朗は気を失ってしまった。

「ネコミミ新幹線」ことFASTECH 360 Sが耳を出したまま博多駅のホームに滑り込んできたのはその直後のことである。


 今回の依頼も簡単でした。せっかく乗るならと新幹線のことを事前に調べておいたからでしょうか。
しかも運転手さんの格好を描いた絵まで出てくるんですから、インターネットってとても便利ですね。
もし今までの制服のままだと画竜点睛を欠くことになりますね、せっかくの新しい新幹線なのに。

 でも良かったですね。運転手さんは新型の新幹線を運転できたし、お客さんたちも助かったし。
あたしは席に戻るのが遅れて転んじゃったけどね、えへへ。

 しかし誰なんでしょうね? 新幹線を壊してこんな目に遭わせた人は。
まあいいか、結果良ければすべて良しと言いますからね。

 それじゃまたどこかでお会いしましょうね、バイバイ!


 少年少女文庫のストーリー道場に初めて投稿したものです。
 本当は「新幹線を壊してこんな目に遭わせた人(なずなちゃんのことです、Hi)」の話を先に書くつもりだったのですが、こちらが先に書きあがりました。(だから形の上ではその話の後編ということになります)
「ネコミミ新幹線」を走らせてみたかったのと、それならいっそトレインガールに運転させたかったのとでこうなりました。
(ただし猫手では運転しにくいと思ったので普通の手袋にしました)


 ATC- Automatic Train Controlの略。自動列車制御装置。列車が進行可能な速度を指示し、その速度を超えた場合に自動的にブレーキをかけることにより列車同士の運行間隔を確保するための信号システム。

 新幹線に使われているのはCS-ATC(Cab-Side ATC)と呼ばれ、信号が車内に表示されるようになっている。これは新幹線が非常に速いため、地上に設けた信号を目視で確認するすることが非常に困難なためである。

参考:自動列車制御装置-Wikipedia

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