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 あたし、なずな。ブレザーの制服が良く似合う美少女です(きゃっ、言っちゃった)。
以前は男の子だったんだけど、小さな女神様が現れてこの姿にされちゃったの
またまた今日も困ってる人の声が聞こえる、なんとか助けてあげなくちゃ。
だってこの能力、そのためにさずけてもらったんだから。ね、女神様。
たとえ火の中水の中、今日も世のため人のため、なずな行っきまぁ〜す!

(毎度毎度ドジばかり踏みやがって。いいかげんにしろ!)


ハンター・シリーズ「77番目のドジっ子」
作:高樹ひろむ

※「華代ちゃんシリーズ・番外編」の詳細については、以下の公式ページを参照して下さい。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/kayo_chan02.html

※ハンター・シリーズの詳細については、以下の公式ページを参照してください。
http://www7.plala.or.jp/mashiroyou/Novels-03-KayoChan31-Ichigo00.htm


 ある日のハンター本部。最近は華代被害が少なく、ハンターたちはだらけ切っていた。
いや、正確には被害が少ないのではない。被害そのものはそこそこあるのだが、出動になぜか空振りが多いのだ。特に集団性転換のケースにそれが多い。
ハンター以外に被害者を元に戻している人間がいると考えれば辻褄が合うのだが、そんなことを信じろと言う方が無理であった。

「メイド喫茶の客が全員メイドになったというんで駆けつけたら、その時は既に元通りに戻っておりました」
「ということは、真城華代が自分で戻したというのか?」
「いえ、そうじゃなくて、空を飛んできた女の子がやったそうです。ブレザーの制服着てましたし、間違いなく華代とは別人です。」

それを聞いて浅葱千景にはピンとくるものがあった。探偵の第六感というやつだろうか。(間違いない、この前新幹線の中を飛んできたあの女だ)

 その後千景がネットを使って調査した結果以下のことがわかった。裏の人間がよく利用するサイトを使ったこともあって、2〜3日もすると必要と思われる情報はほぼ集まった。とはいえ当然ながらガセ情報を意図的に流すやつもいるので(いわゆる「嘘を嘘と見抜けないと〜」という不文律)、念のため鈴代さんに裏をとってもらったのであるが。

  1. 彼女が最初に現れたのは、コミック・エキスポと呼ばれる同人誌即売会であること
  2. その会場で真城華代による集団性転換が行われ、彼女はその依頼者かつ被害者であること
  3. その後突然被害者たちが一発で元に戻されたが、戻したのはどうやら彼女らしいこと
  4. その際彼女自身は元に戻らなかったこと
  5. その少し後に近くの銀行の建物が突然崩壊し、その犯人は彼女らしいこと
  6. 銀行崩壊の少し前、怪しい男達が銀行に入っていくのが目撃されていること
  7. 銀行の建物が崩壊した際、建物の中にいたにもかかわらず彼女自身は無傷だったこと
  8. その後新幹線の中に突然現れ、爆弾犯人と車掌とともに車外に飛び出したこと
  9. その際新幹線をぶっ壊して乗客たちの命を危険にさらしていること
  10. その後も人助けと称していろいろしているが、あまりにドジなためかえって被害を拡大させることもしばしばあること

 もちろん、8.と9.は千景自身が体験したことである。
(こうやってみるとなんか真城華代に似てるようだな。銀行の建物を破壊したのだって、強盗を取り押さえるためにやったのだとしたらある意味理屈が通っているし)
(集団性転換を一発で戻しただって? そんなことができるのは華代以外ではハンター能力を持っているやつだけだが、そんなに強力なのはここにだっていないはず。なんとか味方につけることはできないものか)と千景は考えた。
しかし華代と同じく彼女も神出鬼没、ここは静かに機会を伺うべきではないだろうかと思い直した。

 

 そして、その機会は案外早くやってきた。
「集団性転換事件発生! ハンターたちは至急向かわれたし」
「おい、さっさと行け。正体不明の女の子に先を越されるな」
「ちょっと待ってください。ここは私に任せてくれませんか?」と千景は言う。
「一体どうしようというのだ? 君はハンターじゃないだろう」
「彼女をハンターとしてスカウトしたらどうでしょうか? 私がここへ来るよう説得します」
「しかし、相手は魔法使いか超能力者だぞ。君の手に負えるのか?」
「ええ、私はそのような者と闘ったこともあります。一人を除いて負けたことはありません」
もちろんその一人というのは真城華代のことである。
「……わかった、そういうことなら君に任せよう」

 ある男子校……だったはずの学校。そこは女生徒であふれ返っていた。そして、空を見つめている何人かの女の子たち。
そこへ向こうの方から何かが飛んで来る。

「あ、あれは何だ」 「鳥だ」 「飛行機だ」
「「「いや、なずなちゃんだ!」」」

というが早いか、女の子が空を飛んできて……電線に足を引っ掛けて地面に叩き付けられる。
ありゃ無事では済まないな、と思ってると女の子は何事も無いように起き上がり口を開く。
「あたたたた〜、引っかかっちゃった、てへっ♪」

「「「やっぱり、スーパードジっ子のなずなちゃんだ!」」」

「あたしを呼んだのはあなたね、いったいどうしたの?」なずなはひとりの女の子に話し掛ける。
「実はさっき小さい女の子が来て『何か悩み事はありませんか?』と言うものだから、『こんなむさい男しかいない学校なんかやだ、女の子がいるところに行きたかった』と言ったんだ。
そうしたらその子が手を振り回して、間もなく自分や周りのみんなが女の子になっちゃったんだ。いくら周りが女の子だからって、自分まで女の子になっちゃ意味無いじゃないかぁ」と女の子。

「なるほど、わかったわ。大丈夫、あたしが戻してあげるから」なずなは両手を上げる。
「なずな、行きまぁ〜す。そおれっ!」と言って両手を振り回す。激しい風が巻き起こる。そして、女にされた人々が元の姿に戻っていく。
「これでOK。じゃあね」といってなずなは飛び去ろうとした。

 と、その時である。「おい、ちょっと待て」と千景は言った。
「ごめんなさぁい、急いでるの」なずなはそう言って逃げるように飛び去ろうとする。
「おい、待てと言うのがわからんのか」千景は銃を取り出してなずなを撃つ。ゴム製の模擬弾とはいえ、当たると結構痛い。
「痛たたたたたぁ……。いけないわ、そんなことしちゃいけないわ」というなずな。
「まあとにかく話を聞いてもらおうか」と千景。それを聞いてなずなは千景の前に舞い降りた。
「人目があるところだとアレだから、ちょっとこっちへ来てもらおう」と千景。
歩いていく千景についていくなずな。と、足元の石を踏み損ねてすってーんと派手にすっ転ぶ。
「てへへ、転んじゃった……」千景を巻き込まなかったのが不幸中の幸いであった。
(まったく何やってんだか)と千景は苦笑した。

「あ、あなたはひょっとして新幹線の中で会った」なずなは言う。
「そうだよ。あの時はよくも獲物を横取りしてくれたな、しかも乗客たちの命を危険にさらした。もちろん私も含めてな」
「え? ごめんなさいごめんなさい。そんなことするつもりはなかったのに」
「まあ乗客はどうやら真城華代が助けてくれたようだ、運転士は女にされたけどな。お前さんも女にされた口だろ? 真城華代に」
「真城華代ちゃん? ああ、あのコミック・エキスポで会ったあの娘のこと? そういえばこんなものもらったっけ」なずなは華代ちゃんの名刺を取り出す。
「いや、その必要は無い。全て調べがついてることだから」
千景は暗殺者として、そして男としての最後の仕事を思い出しながらそう言った。

「実は、真城華代の被害を回復して回っているハンターという組織がある。お前さんはその能力、しかも飛び抜けたものを持ってるようだし、ぜひスカウトしたい」
「でも、あたしはスーパードジっ子と呼ばれてるほどのダメな女の子だし、それでもいいの?新幹線のこともそうだけど、前にビルをぶっ壊したこともあるし」
「その程度のことは既に調査済みだ。ところでさっきお前さんが見せた集団性転換を一発で戻すという能力、それを使えるやつは現在のハンターの中に一人もいない。だからお前さんはハンターとして結構重宝されると思うが」
「一発で戻す能力? じゃなぜあたし自身は戻らなかったのかしら? 最初の時」
「最初というと、華代に変えられた直後ということか? どうやらハンターの能力ではハンターの能力があるやつは戻せないということらしい。もちろんお前さんにもハンターの能力があるからお前さん自身は戻せなかったということだ」

「ところで、あなたもそのハンターなの?」なずなは訊く。
「いや、そうではない。私はかつて名探偵と呼ばれていたが、訳あって今はハンター本部に世話になっている。浅葱千景という名前を聞いたことはないか?」千景は答える。
「そういえば聞いたことがあるわね、確か難事件をいくつも解決した美少女名探偵。だけど少し前に謎の失踪を遂げたと新聞に書いてあったんじゃないかしら。あなたがその千景さん?」
「そうだ。でも大人たちにいいように利用されてたのに気付いて、探偵と言う仕事に嫌気がさしてな……」
千景は自分が失踪する直前のことを思い出しながらそう言った。

「ところでお前さんの名前は?」と千景。
「なずな。『なずなSOS』というアニメがあるでしょ? その主人公の名前がなずなというの。コスプレしたいと華代ちゃんに言ったら、なずなちゃん自身にされちゃったみたい。だからもちろん超能力もあるし、性格までドジになってるのね」となずな。
「元々の名前は春野奈須雄というんだけど」と付け加えた。

(なずなSOSといえば、確か秋葉英世という漫画家が原作者だったっけ、今は失踪中だが)
確か彼の著作には、彼女が通った後にはペンペン草も生えないということからペンペン草=なずなということで名づけたというようなことが書いてあったはず。そうだとすると、よりによってとんでもないやつに変身させてくれたものだと千景は思った。

「なずな? 春の七草の名前だな。で、元々の苗字が春野ってか。だったら春野なずなでいいんじゃないか?
またハンターには番号をつけることになっているが、57号に半田いづなというのがいるからそれに習って77号にしたらどうかな。今のところ使ってる者はいないし、語呂も合ってるし、それがいいだろう」

「で、ハンターの仕事だが……」千景はハンターの仕事について説明した。
真城華代に変えられた人達を元に戻す仕事であること、華代自身を消そうとしたりすると返り討ちに遭うということ(千景自身がその経験者であるからそこは念入りに)、ハンターの中にも華代の被害を受けた者がいるということ、等々。

「ようするに、今まで自分がやってたことをハンターという組織の名前でやるということ?」
「ま、そういうことだな。ちゃんと給料も出るぞ」
「で、もしやりたかったらどうすればいいのかしら?」
「そうだな、今この場で決めろと言ってもそれは無理だろう。だからよく考えた上で、やりたいと思うならばここへ来るように」
と言って千景はなずなにハンター本部の地図を渡す。
「わかりました。それじゃ近いうちに行くと思いますが、その節はよろしくお願いします」となずな。

 そして、「なずな、飛びまぁ〜す」と言うなり空を飛んで……電柱にぶつかって地面に落ちる。
起き上がって「あいたぁ。電柱さん、ごめんなさ〜い」と言うなり恥ずかしそうに去っていった。
千景の頭の中には「敵に回すと恐ろしいが、味方につけると頼りない」という言葉が浮かんだが、
その考えを打ち消すように頭を激しく左右に振って、気のせいだと思いこむことにした。

 

後日、ハンター本部にて

「またいちごは引き篭もっとるのか」
「はぁ。実は千景と疾風がまた追いかけっこをやってたんですが」
「やるのはいいが、ちゃんと後片付けしとけと言っておいただろうが」
「片付けてはあったんですが、なんとゴム弾が1個だけ残ってたそうです。よりによってそれを本部に来たばかりの77号が踏みまして、そしてすってーんと」
「転んだ時にいちごのスカートを引きずり下ろしたとでもいうのか? まさかそのくらいで」
「いえ、服や体に触ったわけではありません。起き上がる前、77号が顔だけを起こして『あたしってダメね。また転んじゃった、てへっ♪』と可愛く言ったそうです」
「それで?」
「それで、いちごが77号を抱き起こそうとしたんですが、ドジぶりがあまりに可愛くて胸がキュンとなってしまったんだとか」
「……いいからすぐに連れて来い。77号の書類を作らなければならん」 


 なずなちゃんがハンターにスカウトされたストーリーですがいかがでしょうか。
「そんなのハンターにしたら破綻する」という考えもありましたが、まあドジっ子ゆえに能力を100%発揮することは無いということで勘弁してください。

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